畑とつながるパン。ジャガイモたっぷりのドイツ農家パンと、私の小さな願い

この数日、あるパンをずっと焼いています。

キルヒベルガーカルトッフェルブロート——舌を噛みそうな長い名前ですが、ドイツ南部に伝わる、ジャガイモをたっぷり練り込んだライ麦パンです。

ライ麦の割合は少なめ。小麦やライ麦よりも、とにかくジャガイモをたくさん入れて焼く、ちょっと変わったパンです。

このパンは、どんなパン?

キルヒベルガーカルトッフェルブロートは、ドイツ南部・アルプス山岳地帯で愛されてきた農家のパン(バウエルンブロート)のひとつです。

その昔、小麦やライ麦が十分に手に入らなかった時代。寒くてやせた山の土地でもよく育つジャガイモを、農家の人たちは粉の代わりにたっぷり入れてパンを焼きました。山での仕事の合間に食べる「アルムヤウゼ(山の間食)」として、素朴で力の出るこのパンは、庶民の暮らしを支えてきたのです。

きれいに飾られたパンではありません。でも、そこには「あるものを大切に使って、お腹いっぱい食べる」という、農家の知恵と優しさが詰まっています。

ジャガイモを入れると、どうなるの?

ジャガイモをたっぷり入れると、パンはこんなふうに変わります。

  • しっとり、もちもちした食感に
  • 日持ちが良くなる(時間が経ってもパサつかない)
  • 重すぎず、軽くて食べやすい
  • ほんのり甘く、深い味わいに

これはジャガイモに含まれるでんぷんの保水性のおかげ。でんぷんが水分をしっかり抱え込むので、パンが乾きにくく、翌日以降もおいしく食べられるんです。昔の人が経験から見つけた知恵が、ちゃんと理にかなっているのが面白いですね。

ジャガイモは「貧者のパン」だった

ジャガイモは、寒さや痩せた土地に強く、栄養も豊富。だからヨーロッパでは飢饉のたびに人々を救い、「貧者のパン」と呼ばれてきました。

このジャガイモを語るとき、私がいつも思い出す一枚の絵があります。

ゴッホの《ジャガイモを食べる人々》。

フィンセント・ファン・ゴッホ《ジャガイモを食べる人々》1885年
フィンセント・ファン・ゴッホ《ジャガイモを食べる人々》1885年(ゴッホ美術館蔵/パブリックドメイン)

薄暗いランプの下で、貧しい農民の家族が、自分たちの手で育てたジャガイモを分け合って食べている絵です。ゴッホは「土を耕したその手で、土が生んだものを食べる」——その正直な暮らしを描きたかったと言われています。

ごつごつとした手、飾らない食卓。決して裕福ではないけれど、自分たちが作ったものを囲んで生きる姿。私はこの絵が、とても好きです。

なぜ、乳酸発酵種を入れるの?

このパンには、ライ麦の乳酸発酵種を使っています。

ジャガイモをたくさん入れるとパンは重くなりがちですが、発酵種を入れることで——

  • 独特の酸味と深い風味が生まれる
  • 発酵が安定する
  • 日持ちがさらに良くなる(乳酸には自然の防腐効果がある)
  • 体にやさしく、消化を助けてくれる

時間をかけて発酵させることは、手間はかかるけれど、パンを「ただの食べ物」から「滋味深い一本」に変えてくれます。

私が、野菜を練り込んだパンを焼く理由

私は、野菜を練り込んだパンが好きです。

野菜が好き、というのもあります。でもそれ以上に——農家さんとつながって、パンを焼きたいという気持ちがあるんです。

農家さんが手間ひまかけて、大切に育てた野菜。きれいで大きく育ったものは、消費者さんのもとへ届きます。でも、少し小さかったり、見た目がふぞろいだったりして、店頭に並べるのが難しい野菜もあります。味も栄養も、何ひとつ変わらないのに。

私は、そういう野菜こそ買わせてもらって、パンにしたいんです。

形がふぞろいというだけで評価されにくい野菜にも、ちゃんと値打ちがある。どれだけの時間と愛情をかけて育てられたかを知っているからこそ、その野菜をおいしいパンに変えて、きちんとお客さまに届けたい。そうやって農家さんの仕事が報われる形になれば、私もすごく幸せな気持ちになるんです。

滋賀県で野菜を育てている「山のしずく」さん(@yamanoshizuku_nouen)。彼女の野菜を使わせてもらうことがよくあります。ふぞろいの野菜も含めて、大切に育てられた野菜をパンにできるとき、私はいつも、心からありがたいなと思うのです。

このジャガイモのパンも、そんな想いの延長線上にあります。山の農家が、あるものを大切に焼いたパン。その精神に、私はすごく共感するんです。

ドイツでは「ラード」を塗って食べる

ところでこのパン、本場ドイツではちょっと面白い食べ方をします。

シュマルツ——ラードを使った塗り物を、たっぷり塗って食べるんです。ただの脂ではなく、玉ねぎやりんご、スパイスを混ぜ込んだ「グリーベンシュマルツ」という素朴なごちそう。風味の強いライ麦パンに、こっくりとしたシュマルツがよく合うのだそうです。

実は今、このシュマルツを自分でも作ってみようと思っています。日本の材料でも作れるのか、本場の味に近づけるのか——。

次回は「シュマルツを作って、このパンと一緒に食べてみた」記事を書く予定です。どうぞお楽しみに😊

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