パン種にもミトコンドリアがありました

自分の体の中の話だと思っていました

ミトコンドリアのことは知っていました。長生きや免疫に関わる大事なもので、自分のも元気でいてくれたらいい。そう思っていました。

そのミトコンドリアが、パン種の中にもありました。

酵母の中でもしていることは同じでした

ミトコンドリアの仕事は、酸素を使ってエネルギーを作ることです。酵母の中でも人の細胞の中でも、やっている内容は変わりません。

ただし酵母は休ませることができます

人の細胞は酸素が止まると困ります。でも酵母は違っていて、酸素がなくても糖さえあれば発酵のほうでエネルギーを作り、そのまま生きていけます。

パンがふくらむのは、ミトコンドリアを使っていないときの働きです。酸素があるときは呼吸をして数を増やし、酸素がないときは発酵をしてアルコールと炭酸ガスを出す。あの気泡は後ろ側の仕事でした。

ザクロから起こした酵母の瓶。表面に泡が立っている

酵母にも寿命があります

酵母の母細胞は、娘を20回から30回ほど産むと分裂をやめます。これを複製寿命といいます。

※母細胞・娘細胞というのは細胞分裂の呼び方で、性別の話ではありません。人の細胞が分かれるときも娘細胞と呼びます。

人の長寿の研究は酵母から始まりました

長寿遺伝子と呼ばれるサーチュインは、もともとこの酵母で見つかったものです。酵母の寿命を調べているうちに出てきて、そこから人の研究へ広がっていきました。

パンを焼くときに使っている生き物が、人の老化研究の出発点だったわけです。

傷んだものは掃除されます

ミトコンドリアも傷みます。傷んだものは選り分けられて分解される仕組みがあって、これをマイトファジーといいます。人にも同じ仕組みがあり、うまく働かないとパーキンソン病につながることが分かっています。

そしてこの掃除の仕組みを見つけたのも、やはり酵母でした。大隅良典さんが酵母を顕微鏡で見ていて気づいたもので、2016年のノーベル賞になっています。

それでも母細胞は古いほうを引き受けます

掃除をしてもなお、傷んだものは残ります。酵母の母細胞はそれを自分のところに留めて、娘にはよいほうを渡す。だから母のほうが先に分裂をやめます。

人のミトコンドリアが母親からしか受け継がれない話は、もうひとつのブログに書きました。

完璧でなくても回っています

人の体も同じで、きれいなものと傷んだものが混ざったまま動いています。混ざっていても、よいほうが十分に多ければ困ったことは起きません。全部をきれいに保っている人はいないそうです。

ぬか床と似ていると思いました。中は乳酸菌だけではありません。いろいろなものが混ざっていて、それでも乳酸菌が優勢でいてくれれば美味しく漬かります。きれいにするのではなく、優勢を保つ。体の中でも同じことが起きていました。

免疫のほうは当てはまりません

長生きのほうは酵母とつながっていましたが、免疫は違います。免疫は人や動物の体の仕組みで、酵母は持っていません。

台所では二つに分かれます

ミトコンドリア
麹(カビ) ある
パンの酵母 ある
ぬか床の乳酸菌 ない
納豆菌 ない
お酢の酢酸菌 ない

麹もパンの酵母もカビの仲間で、細胞の中に核があります。核がある側には人も入ります。ぬか床の乳酸菌も納豆菌もお酢の酢酸菌も細菌で、核がありません。麹と私は同じ側にいて、乳酸菌だけが別の側にいました。

混ぜるとおさまるのには理由がありました

産膜酵母が増えると、においが変わります。シンナーやセメダインのようなにおいになって、味にも出てくる。だから白い膜が出たら早めに手を打ちます。このにおいのことはぬか床のシンナーのにおいは濃すぎたパイナップルでしたに書きました。

打つ手は、表面に浮いているものを下へ送ってしまうことです。

ミトコンドリアは酸素を使ってエネルギーを作るので、酵母は酸素があるとよく増えます。酸素が好きなことを好気性といいます。産膜酵母が表面に出てくるのは、そこに空気があるからです。

下へ送ってしまえば、そこに酸素はありません。産膜酵母は勢いを落とします。

いっぽう乳酸菌はミトコンドリアを持たないので、呼吸という仕組みがありません。酸素があってもなくても乳酸を作るので、沈められても困らない。

下に送るというのは、酸素が要る側を酸素のないところへ移して、酸素が要らない側に場所を返す作業でした。

どちらに有利にするかを決めていました

ぬか床で表面のものを下へ送るのは、酸素が要る側に不利な場所へ移して、酸素が要らない側に有利な場所を返すということです。パン種で空気の入れ方を変えるのも、同じことをしています。

私は菌を育てているのだと思っていました。でも実際にやっていたのは、どちらに有利な場所を作るかを決めることでした。

味噌も同じで、塩の量と温度で働ける菌が決まります。

手の動かし方は、これまでと変わりません。変わったのは、自分が何をしているのかのほうでした。

体のミトコンドリアをどうすれば保てるのか、はっきりした答えはまだありません。それでも、これはいいかな、あれはどうかなと考えながら台所に立ちます。昔から台所に立ってきた人たちも、たぶんずっとそうしてきたのだと思います。確かめる方法がなくても、家族の体を作ってきた。強いなと思います。

今日もぬか床を混ぜています。

うちのパンは、パンによって違う自家製酵母で焼いています。

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