「玄米って、実は体に悪いらしいよ」
そんな話を、聞いたことはありませんか。せっかく体にいいと思って食べていたのに、急に不安になりますよね。
でも、この話は玄米だけのことではありません。私が焼いているライ麦や全粒粉のパンにも、そのまま関わってくる話なんです。だから今日は、パン屋の私からお伝えしたいと思います。
今日は、この話のほんとうのところと、そこで発酵パンがしてくれている"いい仕事"についてお話しします。

「毒」の正体は、フィチン酸
玄米が体に悪いと言われるとき、やり玉に挙がるのが「フィチン酸」という成分です。
でも、はじめにお伝えしておきたいことがあります。フィチン酸は、毒ではありません。正しくは「抗栄養素(こうえいようそ)」と呼ばれるものです。
食べたら害になる、という意味の毒ではなくて——鉄や亜鉛、カルシウムといったミネラルとくっついて、体に吸収されるのをちょっと邪魔してしまう。そういう成分なんです。
だから「毒される」のではなく、「せっかくのミネラルを、取り込みにくくする」。ちょっともったいない、という話なんですね。
このフィチン酸は、玄米だけでなく、全粒粉やライ麦の外側の"ふすま"の部分にも含まれています。栄養がたっぷりつまった、まさにその場所に、です。
ここからが、面白いところ
あまり知られていない、面白い事実があります。
このフィチン酸は、発酵で分解されるんです。
パンをじっくり発酵させて寝かせている間に、酵素の力がフィチン酸を少しずつほどいていく。だから、発酵させたパンは、ミネラルを取り込みやすくなると言われています。
考えてみると、昔の人が穀物を水に浸したり、発芽させたり、発酵させたりしてきたのは、経験から「そのほうが体にいい」と知っていたからなのかもしれません。理屈は知らなくても、知恵として受け継がれてきた。そう思うと、発酵ってすごいなあと、あらためて思います。
だから、全粒を怖がらないで
ここでいちばん伝えたいことがあります。
「フィチン酸があるから、全粒やライ麦は危ない」——そうではありません。
全粒やライ麦には、食物繊維やミネラルといった、白いパンにはない栄養がつまっています。そのいいところを、発酵という昔ながらの知恵が、じょうずに受け取れる形にしてくれている。
私がいつも自家製酵母でじっくり発酵させてパンを焼いているのは、味のためだけじゃありません。全粒のいいところを、ちゃんと受け取ってほしいから。そう思って、今日も生地を寝かせています。
「体に悪いらしい」の一言で遠ざけてしまうには、全粒のパンは、あまりにもったいないですよ。
今日の写真は、私が焼いた「ケルニッシュブレッド」というパンです。ライ麦を40%使って、発酵種をたっぷり効かせた、風味の豊かな一本。薄めに切って、シンプルなサンドイッチやオープンサンドにすると、パンそのものの味がしっかり引き立ちます。かめばかむほど、じんわりおいしい。全粒のいいところを、いちばん感じてもらえるパンかもしれません。
ライ麦パンが本当に体にいいのか、という話は、こちらの記事にも書いています。よかったら読んでみてください。
ライ麦パンって本当に体にいいの?


