前回、グルテンとは何かを書きました。ひとことでおさらいします。
グルテンは、小麦のたんぱく質です。小麦粉に水を加えてこねると、粉の中にばらばらにいたたんぱく質同士が手をつないで、網目ができます。これがグルテンでした。
今回はその続きです。同じ小麦から生まれた網目でも、パンによって強さがまるで違います。
ふわふわのパンほど網目は強い

ふわふわのパンは、やわらかいのだからグルテンも弱いのだろう。そう思われがちです。
でも、逆です。
あのふわふわは、網目がしっかり張っているからこその形です。酵母が出したガスを逃がさず抱え込むには、強い網が要ります。短い時間で一気にふくらませるパンほど、粉をよくこねて、網をしっかり作ります。大きくふくらんでふわふわに焼き上がっているということは、網目が最後まで強いまま残っていたということです。
反対に、ゆっくり時間をかけて焼いた、固そうに見えるパンのほうが、中の網目はゆるんでいます。見た目と中身は、一致しません。

時間をかけると網目はゆるむ
パンを長い時間かけて発酵させると、生地はだんだん酸性に傾きます。すると、小麦がもともと持っている分解酵素が動き出します。この酵素が、グルテンの網目を少しずつほどいていきます。
では、ゆるむと何が違うのか。
たんぱく質は、体の中でバラバラにほどかれてから吸収されます。そしてグルテンは、ほかのたんぱく質にくらべて、体がほどくのが少し苦手な構造で、消化酵素が切りにくい形をしているのです。
つまり、しっかり張ったままの網目を食べると、そのほどく作業を、体が最初から全部やることになります。
一方、長い時間発酵させたパンでは、その作業の一部が、焼く前に生地の中でもう済んでいます。下ごしらえが進んだ状態で口に入る、ということです。
同じ小麦粉、同じ量のグルテンでも、ほどけかけているか、がっちり張ったままか。この違いを作るのは、こねる技術ではなく、長い発酵時間です。
えぷりーずの菓子パンが小ぶりな理由
ここまで読んで、こう思われたかもしれません。えぷりーずの菓子パンもふわふわだけど、あれはどうなの、と。
答えを書きます。
パンがふくらむには、網が要ります。これはどのパンでも同じです。分かれ目は、その網をどこまで張らせるかです。
短い時間で発酵させると、網は張ったまま残ります。だから思いきり大きくふくらみます。
長い時間かけて発酵させると、網は張りながら、同時にほどけていきます。張る力とほどける力が、同じ生地の中で進んでいるわけです。だから、そこまで大きくはなれません。
えぷりーずの菓子パンは、長時間発酵です。同じ生地を短い時間で発酵させれば、倍の大きさにふくらみます。でも、そうしていません。だから小ぶりです。
小さいのは、材料をけちっているからでも、うまくふくらまなかったからでもありません。待った時間が、そのまま大きさに出ています。
だからこれは、選ぶときの目印になります。同じような菓子パンでも、やたらと大きくてふわふわなものと、小ぶりでふわふわなもの。小ぶりのほうが、網はゆるんでいます。
ライ麦パンには網目がない
もうひとつ、あまり知られていない事実があります。
ライ麦パンには、そもそもグルテンの網目ができていません。
毛糸で考えるとわかりやすいと思います。
小麦のたんぱく質は、こねると毛糸を編むようにつながって、一枚の網になります。ライ麦のたんぱく質は、編むことができません。毛糸のまま、ばらばらに散らばっています。
だから、ライ麦パンは大きくふくらみません。ガスを抱え込む網がないからです。あの目の詰まった、ずっしりした生地は、網がないことの結果です。ライ麦パンを食べたことのある方なら、あの詰まった生地を思い出してもらえばわかると思います。
そして食べるときも、ほどくべき網がありません。編まれていないものは、ほどく必要がないからです。体にとっては、その分だけ手間が少なくてすみます。
ただし、グルテンフリーではありません
網ができていないだけで、たんぱく質そのものは入っています。毛糸が編まれていないだけで、毛糸はそこにある、ということです。セリアック病のように、たんぱく質そのものに体が反応してしまう方の場合、編まれているかどうかは関係ありません。毛糸に反応するので、ライ麦パンでも同じことが起きます。
グルテンではないかもしれない
最近わかってきた、面白い話があります。
「小麦を食べると重い」と感じる人のその原因は、グルテンではないかもしれない、というものです。
フルクタンって何?
フルクタンは、糖の仲間です。ただし、砂糖のような甘さはありません。果糖が数珠つなぎになったもので、オリゴ糖の一種です。
人は、これを分解する酵素を持っていません。だから消化されないまま、大腸まで届きます。そこで腸の中の菌のエサになります。
つまり、悪いものではありません。オリゴ糖が腸にいいと言われるのは、まさにこの働きのことです。
ただ、菌が食べるときにガスが出ます。量が多かったり、お腹が敏感だったりすると、これが張りになります。
玉ねぎやにんにく、ごぼうを食べるとお腹が張る人がいます。あれと同じものです。フルクタンは小麦だけの成分ではなく、玉ねぎ、にんにく、ごぼう、アスパラガスにも入っています。
小麦が話題になりやすいのは、パンや麺として食べる量が多いからです。玉ねぎを丼一杯食べる人はいませんが、小麦で作ったパンや麺なら食べます。
このフルクタンを控える食べ方は「低FODMAP食(ていフォドマップしょく)」と呼ばれていて、お腹の不調に対する食事療法として使われています。気になる方は、この名前で調べてみてください。
グルテンとは、まったく別ものです
| グルテン | フルクタン | |
|---|---|---|
| 正体 | たんぱく質 | 糖(オリゴ糖の仲間) |
| どこから来る | こねると生まれる | 粉に最初から入っている |
| 起きる場所 | 胃と小腸 | 大腸 |
| 何が起きる | ほどきにくい | 菌が食べてガスが出る |
| 感じ方 | 重い、もたれる | 張る、ごろごろする |
片方はたんぱく質、片方は糖。まったく違う成分が、体の違う場所で、違うことをしています。
そして面白いのはここです。フルクタンも、長時間発酵で減ります。焼く前に、酵母や乳酸菌が食べてしまうからです。乳酸発酵で作るライ麦パンでは、特にはっきり減ります。
グルテンは酵素にほどかれ、フルクタンは菌に食べられる。やっていることは違うのに、どちらも「時間をかける」ことで同時に起こります。
長く発酵させたパンのほうが軽く感じる人がいるとしたら、理由はひとつではない、ということです。
※ 体質でお医者さんから小麦を止められている方(セリアック病や小麦アレルギー)には、この話は当てはまりません。長い時間発酵させても、グルテンがなくなるわけではありません。その場合はお医者さんの言うことが一番です。
選ぶ前に知っておきたいこと
まとめます。
- 短い時間で一気にふくらませたパン → 網目は強いまま。ほどく作業は全部、体がやる
- 時間をかけて発酵させたパン → 網目はゆるんでいる。下ごしらえが少し済んでいる
- 乳酸発酵で作るライ麦パン → そもそも網目がない。ほどく作業が起きない
- 同じ菓子パンでも、小ぶりなほうが網はゆるんでいる
グルテンを避けるかどうかの前に、この違いがあることを知っておくだけで、選べる幅がずいぶん広がります。
次回は、グルテン以外の話を書きます。小麦のせいだと思っていたものが、じつはまた別のものだった、という話です。
今日もパンを焼いています。
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- グルテンって、そもそも何なんだろう(この連載の1回目)
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