パンが重いと感じるのは、小麦のせいじゃないかもしれない

前回までグルテンの話を2回書きました。①でグルテンとは何か、②で発酵の長さによって網目の強さが変わること。どちらも、小麦の中の話です。

今回は、小麦以外の話を書きます。

パンを食べて重いと感じたとき、原因が小麦だとはかぎりません。パンには、小麦のほかにもいろいろ入っています。

重さの正体は油かもしれない

まず、油です。

脂質は、胃に留まる時間を延ばします。これは体の仕組みの話で、はっきりしています。油の多いものを食べたあと、いつまでもお腹にある感じがするのは、そのためです。

そして、パンによって油の量はまるで違います。菓子パンと、食パンと、ハードパン。同じ「パン」でも、入っている油の量には何倍も差があります。

小麦の量はそれほど変わらないのに、油の量は大きく変わる。だとしたら、重さの差がどこから来ているのか、考えてみる価値はあると思います。

私が使っている油

うちで使っているのは、熊本の坂本製油さんの菜種油です。

昭和24年から続いているお店で、古式圧搾製法——種に圧をかけて搾る方法で作られています。そして精製に、お湯しか使いません。溶剤も、防腐剤も、消泡剤も入っていない、無添加無着色の油です。

2016年の熊本地震で工場が被災されたのですが、昭和24年から使ってきた焙煎の釜を、新しい工場まで運ばれたそうです。本当に頑張っておられる油屋さんです。 

ドーナツも、この油で揚げています。「油で揚げたと思えないくらいあっさりしている」と言っていただくことがあるのですが、たぶん油のおかげです。自家製のマヨネーズがおいしいのも、同じ理由だと思っています。

ほかにココナツオイルと、たまにコールドプレスのオリーブオイルを使います。オリーブオイルは、同じ名前でも作り方でまるで違います。私はコールドプレスのものだけを使います。

そして教室では、坂本さんのごま油を使っています。これが大活躍です。

香りが、とにかく強い。釜で炒って、搾って、湯で洗う。それだけで出てくる香りです。

一度これを使うと、戻れなくなります。私は戻れませんでした。

手間のかかる作り方を、ずっと続けておられます。それだけのものを、とても良心的な値段で出してくださっている。なくなってもらっては本当に困る業者さんです。いつも本当に感謝しかありません。

いつか熊本に行くことがあったら訪ねてみたいところです

白絞油という名前の話

さっき「菜種油」と書きましたが、うちで使っているのは正確にはしらしめ油(白絞油)といいます。

私はいつも「菜種油」と言い換えていました。「しらしめ油」と聞くと、なんだか悪いものに思われる気がして。

でも今回ちゃんと説明したほうがいいと思い直しました。

しらしめ油は、菜種油から色と香りを抜いたものです。問題は、その抜き方です。

一般には、薬剤を使って精製します。坂本さんのしらしめ油はお湯だけです。

同じ「白絞油」という名前でも、中身がまるで違います。

ショートニングも同じです

うちでは、ショートニングをほとんど使いません。

ただ、どうしてもショートニングでないと出せない食感があって、そのときだけオーガニックのショートニングを使うことがあります。

同じ「ショートニング」という名前ですが、中身は違います。

  • 一般的なショートニング … 大豆油やコーン油などが原料。固めるために水素添加という工程を通ります。このときにトランス脂肪酸ができます
  • オーガニックのショートニング … 主にパーム油が原料。水素添加をしません。だからトランス脂肪酸を含みません

やっていることは同じ「油を固める」なのに、道すじが違います。

トランス脂肪酸は、世界では減らしていく方向に進んでいます。ただ、日本では表示義務がありません。何がどれだけ入っているかは、書かれていないことが多いです。

それでもオーガニックのショートニングも、私はたまにしか使いません。ほかの油のほうが、ずっと長く使われてきているからです。長く使われてきたぶんだけ、そのあとどうなったかも見えている。私は、歴史のあるものを選びたい人間なんだと思います。

小麦だと思っていたら、でんぷんが足されている

ここからが、今回いちばん書きたかったことです。

パンの原材料表示に、「加工デンプン」と書かれていることがあります。

小麦のパンだと思って食べていたものに、別のでんぷんが入っている。ふっくらさせたり、時間が経ってもやわらかいままにしたり、いろいろな働きがあります。

そして、ここです。

加工デンプンは、11種類あります。

2008年に、食品添加物として指定されました。アセチル化アジピン酸架橋デンプン、酢酸デンプン、酸化デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン——名前を並べても、たぶん何も伝わらないと思います。

そのうちどれを使っても、いくつ使っても、表示は「加工デンプン」の一言で済みます。

(増粘剤などとして使う場合は「増粘剤(加工デンプン)」のように、用途が書かれます)

買う人には、何がいくつ入っているのか、わかりません。

危ないという話ではありません

ここは、はっきり書いておきます。

加工デンプンは、食品添加物として指定を受けています。安全性の評価は済んでいます。私は、危ないものだとは思っていません。

「わからない」ことと、「危ない」ことは違います。

片栗粉の裏を見てみてください

うちの台所の話をします。

まず、「片栗粉」という名前ですが、今売られている片栗粉に、カタクリは入っていません。

もともとはカタクリの球根から作られていました。明治のころから北海道のじゃがいもで作るようになって、そちらが主流になった。性質が似ていたので、名前だけがそのまま残ったんです。

だから袋の裏を見ると、「片栗粉」ではなく「ばれいしょでん粉」「馬鈴しょでん粉」「馬鈴薯でんぷん」などと書いてあります。書き方はいろいろですが、どれもじゃがいものことです。

そして、「加工でん粉」と書いてあるものもあります。

私は、ばれいしょでん粉のほうを選びます。

じゃがいもの悪いところを並べた記事を読んだとしても、たぶん選び方は変わりません。体にいいかどうかで選んでいないからです。

加工デンプンは、何十年かは使われてきました。でも、生まれてから死ぬまでずっと食べ続けた人の記録は、まだありません。

じゃがいもは違います。小麦も、味噌も、何百年ぶんの人が、生まれて、食べて、死んでいきました。その積み重ねが、そのまま記録になっています。

私は、記録があるほうを選びます。それだけです。

考え方の問題なので押しつけるつもりはありません。同じように思う方がいたら、うれしいというくらいです。

名前は中身を教えてくれない

今回出てきたものを、並べてみます。

  • 加工デンプン … 一つの名前の下に、11種類
  • ショートニング … 水素添加をするものと、しないもの
  • オリーブオイル … 同じ名前でも、作り方で別もの
  • 白絞油 … 薬剤で精製したものと、お湯だけで精製したもの
  • 片栗粉 … 名前は残っているのに、カタクリは入っていない

名前は、中身を教えてくれません。

だから、パンの原材料表示を、一度じっくり見てみてください。私は、初めてちゃんと見たとき、驚きました。

小麦のせいじゃないかもしれない

小麦がだめだと思っていた人が、じつは小麦ではないものに反応していた。そういうことは、あると思っています。

これは証明はできません。人によって違いますし、両方の場合もあります。

ただ、「小麦がだめだ」と決めてしまう前に、ほかにも入っているものがあると知っておくだけで選べる幅が変わります。

※ 体質でお医者さんから小麦を止められている方(セリアック病や小麦アレルギー)には、この話は当てはまりません。その場合はお医者さんの言うことが一番です。

次回で最後です

次回は、この連載のまとめを書きます。じゃあ、どう選べばいいのか。①から③までを持ち寄って、選び方の話にします。

今日もパンを焼いています。

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