京都の人は、乳酸発酵が身近だった
すぐき、しば漬け、ぬか漬け……。京都には、酸味のあるお漬物が昔からたくさんあります。これらはぜんぶ「乳酸発酵」という発酵でできています。
私は生まれも育ちも京都。なかでもすぐきは、昔から食卓にある特別な存在です。あたたかいごはんと食べても、お茶うけにつまんでも美味しい。あの独特の酸味が、身体に染みついています。
ヨーグルトが酸っぱいのもキムチが酸っぱいのも、同じ乳酸発酵。乳酸菌という小さな生き物が、食べ物の糖を「酸」に変えることで、あの酸味とうまみが生まれます。
京都で育った私にとって、乳酸発酵は意識すらしないくらい当たり前のもの。知らず知らずのうちに、ずっと一緒に生きてきた発酵です。

すぐきから生まれた「ラブレ菌」
実はすぐきは、健康の世界でも有名になったことがあります。
1993年、京都のすぐきから新しい乳酸菌が見つかりました。それが「ラブレ菌」。正式名はラクトバチルス・ブレビス。一時期、テレビや商品でずいぶん話題になったので、名前を聞いたことがある方も多いかもしれません。
このラブレ菌は過酷な環境でも生きられるタフな菌で、免疫の力を高める働きがあると研究されています。京都の昔ながらのお漬物からそんなすごい菌が見つかったというのは、なんだか誇らしい話です。
そもそも「発酵」って?普通のパンとの違い
ここで、パンの発酵を少し整理させてください。
普通のパン(食パンや菓子パン)は、イースト(パン酵母)という微生物を使います。イーストが糖を食べて、二酸化炭素を出す。このガスがパンをふんわり膨らませます。これが普通の「発酵」です。
いっぽうライ麦パンは、イーストに加えて乳酸菌も働く「乳酸発酵」のパンです。
なぜ、ライ麦パンだけ乳酸発酵なの?
これには、ちゃんとした理由があります。
小麦には「グルテン」という、ガスを包んでパンを膨らませる粘りの成分があります。でも、ライ麦にはグルテンがほとんどありません。だからイーストの力だけでは、生地がうまくまとまらず、おいしく焼けないのです。
そこで活躍するのが、乳酸菌が作り出す「酸」。この酸が、ライ麦の生地をちゃんと焼けるように支えてくれます。
つまり——ライ麦パンにとっての乳酸発酵は、「酸っぱくするため」ではなく「パンとして成立させるために必要」なもの。そして結果的に、あの深い酸味とうまみが、ごほうびのようについてくるんです。
すぐきとライ麦パンは、"仲間"だった
ここまで来て、私はあることに気づきました。
京都のすぐきも、ドイツのライ麦パンも、どちらも植物(野菜や穀物)を発酵させた乳酸発酵です。漬物やライ麦パンのような過酷な環境で育つ植物由来の乳酸菌は、生命力が強いものが多いと言われています。
国も、食べ物の形もまったく違うのに、人が「酸っぱい発酵」を選んできた知恵は世界共通で、すぐきが身体に染みている私がライ麦パンを焼いていることは、ぜんぜん遠い話ではなかった——そう気づいたのです。
パンの菌は熱に晒されるけど大丈夫
「パンは焼くから、菌は死んじゃうんじゃないの?」——そう思う方もいるかもしれません。確かにパンを焼くと乳酸菌は熱で死んでしまいます。
でも、菌は死んでも、その"体"は残ります。そして菌には、種類ごとに得意な働きがあるんです。
たとえば、すぐきのラブレ菌が得意なのは「免疫」。体の中でウイルスと戦う力を高めてくれます。この働きは菌の体の成分が担っているので、死んでしまっても発揮されることが研究で確かめられています。
いっぽう、ライ麦の発酵種にいる乳酸菌が得意なのは「腸を整える土台づくり」。死んだ菌の体が腸の善玉菌のエサになり、その善玉菌が腸を元気にする成分(短鎖脂肪酸)を作ってくれます。
生きていても、死んでいても、菌はちゃんと身体のために働いてくれる。そう思うと、パンを焼くこともなんだか愛おしくなります。
こんな食べ方も:ライ麦パン × すぐき
最後に、私のお気に入りの食べ方を。
ライ麦パンにゴマだれを塗って、その上にすぐきをのせて食べる。酸味と酸味が重なって、ゴマの香ばしさとよく合うんです。すぐきは繊維がしっかりしているので、葉の部分は細かく刻んでのせると美味しくなります。和と洋が出会う、ちょっと不思議で美味しい一皿。
今はすぐきの季節ではないので、また出回る頃にぜひ試してみてください。発酵に親しんできた日本人なら、きっと「あ、これ合う!」と感じていただけるはずです😊
りえぷりーずのライ麦パンや発酵については、こちらの記事もどうぞ。
オンラインショップはこちら → えぷりーず
ライ麦パンは、遠い異国のパンに見えて、実は発酵に親しんできた日本人の身体に馴染むのです。
ライ麦パンのセットはこちら → おまかせライ麦パン(3〜6個セット)


