つまんだ瞬間に、あれ?と思いました。
果物のような香りがしたからです。
豆の麹を作っていたはずなのに、鼻に来たのは甘い香りでした。
前の記事で「黒麹の話はまた別に書きます」と書いた、その話です。
麹菌に種類があること
麹菌を買ったことのある方なら、袋にこう書いてあるのを見たことがあると思います。
味噌用。甘酒用。醤油用。
用途は書いてあるのに、菌の名前は書いてありません。

甘酒用、味噌用。用途しか書いてありません。いちばん右だけ、菌の名前です。
実は「味噌用」も「甘酒用」も、ほとんどが同じ黄麹です。同じ菌のなかで株を変えて、酵素の働き方を少しずつ調整してある。用途別に見えて、兄弟のようなものです。
その一方で、まったく別の菌もあります。白麹と黒麹です。
こちらは焼酎や泡盛を作るためのもので、味噌や甘酒を作るものとは違います。同じ「麹」と呼ばれていても、中身はかなり違います。
| 何に使うか | |
|---|---|
| 黄麹 | 味噌・醤油・日本酒・甘酒 |
| 白麹 | 焼酎 |
| 黒麹 | 泡盛 |
ちなみに白麹は、黒麹が突然変異して白くなったものだそうで、もとは同じ仲間だったと知って、今回いちばん驚きました。
黒麹はクエン酸を作る
黄麹と黒麹の、いちばん大きな違いがこれです。
黒麹はクエン酸をたくさん作ります。
もろみが酸っぱくなると、ほかの菌が増えにくくなります。暑い沖縄で泡盛が作られてきたのは、この酸があったからです。
黄麹はクエン酸をほとんど作りません。だから低い温度で、気をつけて管理します。
酸で守るか、温度で守るか。そこが分かれ目です。
クエン酸は梅干しやレモンの酸
クエン酸は、レモンや梅干し、すだちの酸です。暑い日に酸っぱいものが欲しくなること、ありますよね。あの酸です。
焼酎用の白麹や黒麹で作った米麹が売られていて、それで酸っぱい塩麹を作る人がいます。梅のような風味になって、揚げ物にレモンの代わりにかけたり、ドレッシングのもとにしたり。
レモンを買わなくても、麹が酸を持ってきてくれる。
甘酒も同じです。白麹や黒麹で作ると甘酸っぱい甘酒になります。冷やして夏に飲むのがすすめられています。
それからもうひとつ。酸味があると、塩を減らしても物足りなくなりません。
私は豆麹を作るのが好き
ここからは、私の話です。
麹は普通、米か麦に生やします。豆に生やしたものが豆麹です。豆味噌のもとになるもの。
豆麹は難しいと言われます。豆はでんぷんが少ないので、麹菌にとって育ちにくい場所だからです。
でも私は、米麹を作るより豆麹を作るほうが好きです。
味噌用、コチュジャン用と、しょっちゅう起こしているので慣れているのもあると思います。でもそれ以上に、単純に楽しいんです。
豆麹で作った味噌は、すごくコクが出ます。そこも好きなところです。
なぜ黒麹で豆麹だったのか
乳酸発酵のことを、ずっと考えていました。そのときに、黒麹のクエン酸が頭に浮かんだんです。
発酵食品はいろいろ取り入れたほうがいい、という話があります。エクオールの連載でも、腸の菌の多様性について書きました。
ただ、私が考えていたのはもっと単純なことでした。
いま手元にあるものを並べてみます。酵母。乳酸菌。酢酸菌。黄麹。
作られる酸で見ると、こうなります。乳酸菌は乳酸。酢酸菌は酢酸。黄麹は、酸をほとんど作りません。
ここに黒麹が入れば、クエン酸が加わります。
乳酸、酢酸、クエン酸。酸が三種類そろう。
酸味は種類によって質が違います。乳酸はまろやかで、あとに残らない。酢酸はツンと鼻に来る。クエン酸は、きりっとした、はっきりした酸。手持ちが増えれば、作れるものの幅が変わります。
ちなみにこの顔ぶれは、生き物としては二つに分かれます。酵母と麹はカビの仲間で、乳酸菌と酢酸菌は細菌です。その話はパン種にもミトコンドリアがありましたに書きました。
黒麹は前から使ってみたいものでした。ただ黒麹の甘酒はあまり好きな味ではなくて、自分に合う使い方を探しているところでもありました。
それなら、得意な豆麹でやってみよう。
育ててみたら
いちばん驚いたのが、最初に書いた香りです。
出来立てをつまんだとき、酸味はそれほど強くありませんでした。とにかく香りがフルーティーでした。
(黒麹のクエン酸は、麹を作る後半になるほど溜まるそうです。浅めで止めたからかもしれません。)
どこで止めるかは、作る人が決めます。
日本酒の麹は、胞子が出る前に止めます。胞子が出ると雑味が出て、色もついてしまうからです。いっぽう醤油の麹は、緑色になるまで進めます。
同じ変化が、用途によって欠点にもなり、長所にもなる。
私は黄麹なら、深く醸して緑にさせたほうが好きです。そのほうが味に厚みが出る気がします。麹によって、どこまで進めるかを変える。それも作りかたのひとつだと思っています。
今回の黒麹は、浅めで止めました。もっと進めたらどうなるのか。それはまだ試していません。
色の変わり方
色の変わり方も面白かったです。
最初はどの麹も同じで、白く生えてきます。そこから先が違いました。
黄麹は、白から黄色、そして緑へ。
黒麹は、白からグレー、そしてどんどん黒くなっていく。
同じところから始まって、途中で道が分かれます。

黄麹で作った豆麹です。白から黄色へ。深く醸すと、ここから緑になります。

こちらが今回の黒麹の豆麹です。浅めで止めたので、黒さはひかえめ。それでも黄麹なら、この色は出ません。
何に使ったか
前の記事で書いたトマトディップに、この黒麹の豆麹を使いました。豆味噌と一緒に、少し。
コクと、きりっとした酸が、ひとつに入ったディップになりました。
これから
この黒麹の豆麹で、これから料理に使いやすい調味料を作っていきたいと思っています。おかずや保存食にも広げられたら、もっと面白くなりそうです。
いまはココアときなこと味噌で、ディップを試しているところです。
いろいろな使い方ができるようになって、人にすすめられるものになったら、そのときは教室にもしたいと思っています。

試作中のディップです。左上がココア、右上がきなこ、右下が味噌。左下は、何も塗っていないパンです。
まだ途中の話ですが、途中だからこそ書いておきたくなりました。
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今日もパンを焼いています。


