ぬか漬けは秋がいちばん食べやすい

子供のころ、近所におばちゃんがいました。玄関にぬか床が置いてあって、帰ろうとすると「お母さんに漬物持って帰ってあげて」といつも持たせてくれました。

正直に言うと、子供の私はちっともうれしくありませんでした。

その私が、いまは毎日自分のぬか床をかき混ぜています。

去年の夏にぬか床が熱くなった

去年の夏は暑すぎて、ぬか床に手を入れるとぬるいどころか熱いんです。

それでも悪くならなかったのは、朝と晩の1日2回かき混ぜていたからだと思います。

暑いと腐ると思われがちですが、私の実感では暑さそのものより手の回数のほうが効きます。今年はそこまで熱くなりませんでした。

夏の難しさは腐ることではありません

酸っぱくなりすぎることです。

ぬか床の乳酸菌が得意なのは20〜25℃あたりだと言われています。10℃でもゆっくりは働きますが、30℃を超えると進みすぎて乳酸菌が一気に増えます。夏のぬか漬けが酸っぱいのは、そのためです。

夏の酸っぱさは嫌いではありません

暑い日にきりっと酸っぱい漬物が出てくると、それはそれでおいしいものです。夏は酸っぱいものがおいしく感じます。

ただし限度はあって、不快なくらい酸っぱいと酸味を調整して食べます。

いちばん食べやすいのは秋です

涼しくなってくると進み方がゆっくりになって、酸味が穏やかになり、うまみのほうが出てきます。

私は秋のぬか漬けがいちばん食べやすいと思っています。

どちらがいいという話ではなく、季節で顔が変わるだけです。

冬は遅くなりますが止まりません

冬は漬かるのに時間がかかりますが、うちのぬか床はそこまで落ちません。もう3年以上同じぬか床を使っているからだと思います。

ぬか床が悪くならないのは、塩と、乳酸菌が作る酸のおかげです。中が酸っぱく保たれているので、ほかの菌が入ってこられません。

作りたてのぬか床が不安定なのは、乳酸菌がまだ少なくて酸が足りないからです。だから最初は捨て漬けをして、菌を増やす期間がいります。

新しいぬか床が失敗しやすいことと、古いぬか床が丈夫なことは、同じ話の裏表でした。

今年は漬けるものが変わりました

去年はキュウリ、大根、長芋、ナス、白菜と定番ばかりでした。今年はこうです。

  • 教室で作った発酵にんにく
  • 発酵させてから甘酢に漬けたらっきょう
  • 玉ねぎ
  • オクラ

にんにくもらっきょうも、一度発酵させたものです。それをさらに漬けています。自由度がものすごく上がりました。

そしてもうひとつ変わったのが、糠を足すタイミングです。

去年は少し減るたびに「足さなくちゃ」と思っていました。今年は減ってもそのまま漬けていて、足すのは野菜の顔が出てしまいそうだなと思ったときだけです。案外それで平気ですし、溢れそうにならないぶん混ぜやすくなりました。

色が年々変わっていきます

あまり知られていない面白いことがあります。

うちのぬか床は年々きれいな黄金色になっていきます。新しい糠は黄土色をしていて、それが少しずつ黄金色に変わっていく。同じ黄色でも明るさがまるで違います。

去年のぬか床

去年のぬか床です。

今年のぬか床

こちらが今年。黄色が濃くなっています。撮った場所の明るさが違うので参考までに。

そして同じことがライ麦パンの発酵種でも起きます。発酵が進んでいないときはライ麦粉そのままの色で、発酵が進んで酸味が出てくると明るい黄金色に変わる。味を見なくても色でわかります。

なぜだろうと調べてみたら、たぶんこういうことでした。

食べものが茶色くなる反応は2つあって、どちらも酸性だと止まります。りんごの切り口にレモンをかけると茶色くならない、あれと同じです。ぬか床も発酵種も、発酵が進むと酸ができて酸性になるので、くすまないまま明るい色が残る。

色は酸の目印だったんだと思います。

それでも何年もかければゆっくりは進むので、年々深い色になっていきます。

持ってこられる相談はだいたい4つです

教室に来られた方がぬか床を持って店に寄られることがあります。困っているのはだいたいこの4つです。

  • 白い膜が張った
  • シンナーのような匂いがする
  • 水が多い
  • 味がおかしい

この4つはもとをたどると同じところに行き着きます。水です。

水が多くなると中の酸素が足りなくなって乳酸菌が弱り、産膜酵母という別の菌が増えます。それが白い膜になり、シンナーのような匂いと苦味を出します。塩が足りないときも同じ方向に進みます。乳酸菌以外が増えるからです。

このシンナーのような匂いの正体は、ぬか床のシンナーのにおいは濃すぎたパイナップルでしたに書きました。

酸っぱいのは乳酸で、まずいのは別の菌が作った別のものです。酸っぱいとまずいは原因が違います。

だから木の容器を使っています

昔はプラスチックやホーローを使っていました。水が溜まるたびに抜いて、吸わせるものを入れて、それが大変で。少しさぼるとだめになり、めんどうになってやめてしまったこともありました。3年も同じものを使えませんでした。

木がいいと知っていたのは、ごはんのお櫃からです。うちは南部鉄の鍋でごはんを炊いて木のお櫃に移すので、お櫃に入れておくと水が溜まらないことを体で知っていました。木は湿気が多いと吸って、乾くと放す。水を抜く仕事を容器がやってくれます。

買ったときの白木のお櫃と南部鉄の鍋

買ったときは、この色でした。

お櫃には、かぶせる蓋のものと、のせるだけのものがあります。昔は蓋のあるほうを使っていましたが、いまはのせるだけの形が好きです。

でも、お櫃のほうも最初はうまくいきませんでした。変な匂いが出たり、黒ずんでぬるぬるしたり。

そんなころ、田舎のおばちゃんの家でお櫃を見て驚きました。中が真っ黒なんです。ぬるぬるしているんだろうかと触ってみたら、まったくそんなことはありません。焼いてあったんです。

このおばちゃんの話はおばちゃんにもっと教わればよかったに書きました。

家に帰って真似してみました。焼くと最初に嫌な匂いが上がってきて、それが焦げ臭い香りに変わります。おばちゃんの家のように真っ黒にはなりませんでしたが、それでも嫌な匂いは消えて、使い心地がすごく良くなりました。

いま漬物に使っているのは、10年近くごはんに使ったあとのお櫃です。

手入れは難しくありません。数か月に一度、中身をボールに出して洗剤を使わずに洗い、乾かして戻すだけです。まわりがカピカピになって拭いても取れなくなるので、そのタイミングで。

ボールに出したぬか床

まず全部、出します。

洗って乾かした木の桶

洗って乾かしたところ。10年使っています。

さらしをかけて蓋をのせたぬか床

戻したら、さらしをかけて蓋をのせます。ふだんはこの形です。

「発酵しすぎですか」と持ってこられます

これがいちばん多い相談ですが、食べてみると逆のことがあります。発酵が足りなくて美味しくないんです。

自分のぬか床の味は、案外自分ではわからないものだと思います。

漬けていたものや毎日の手入れの仕方を聞きながら、一緒に原因を考えます。発酵が進んでいないぬか床には、私の糠を少し混ぜます。

ひとりで毎日、正解がわからないまま混ぜている。そこを見てもらえるだけで、ずいぶん違うと思います。

続けるとゆるくなる

去年は定番しか漬けず、糠が減ると足さなくちゃと思っていました。今年は何でも漬けますし、減ってもしばらく放っておきます。

続けると、上手になるというより、ゆるくなるのかもしれません。

そういえば、うちのぬか床が何年ものなのか実はよくわかっていません。さきほど3年以上と書きましたが、休ませている期間があるので数えにくいんです。その話はまた書きます。

ぬか漬けはライ麦パンにもよく合うので、教室のランチではパンにのせて出しています。

ぬか床の教室もしています。開催のお知らせはインスタグラムに出しています。

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今日もパンを焼いています。

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